七十二候をおいかけて

日本の四季をさらに細かく区切った七十二侯。ひとつずつ知っていきたいと思います。

苦さもぜんぶ飲み込んで【草木萌え動く】

 
 

 

◆雨水 3月1日~3月4日
◆末侯:草木萌え動く(そうもくもえうごく)
◆侯の野菜:菜花
春が近づいてくると、八百屋さんやスーパーの野菜コーナーだけでなく、道端でも見ることの多くなる菜の花。綺麗な鮮やかな緑色はもちろん、花が咲いた後の黄色が目にとても嬉しく春が来たなあと感じます。食用の場合はつぼみの段階で食べることが多いですが、ビタミンCや鉄分など栄養も豊富なんだとか。
◆侯の野菜:はまぐり
今回の期間中には「桃の節句」も入ってきます。定番メニューのひとつはまぐりのお吸い物はひな祭りはもちろんお祝いごとには欠かせないのではないでしょうか。はまぐりは殻のかみ合わせが対のもの以外は合わないことから夫婦の象徴として扱われてきたそうです。

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苦さもぜんぶ飲み込んで

ひなまつりだ!とわくわくするような年齢は過ぎてしまったけれど、やっぱりこの時期になると、家族でわいわいしていた楽しい思い出がある。

クリスマスが終わって、お正月もだいぶ前に過ぎ、なんとなくちょっと豪華なもの食べたいよね、みたいなタイミングでやってくるひなまつりだからか、料理をする母もちょこちょこ手伝うわたしもほんの少し、わくわくしていたのだと思う。

メニューはちらし寿司に、はまぐりのお吸い物、ちょっとしたチキンやケーキやひなあられなんかも用意していた記憶がある。

どれもこれもだいすきなメニューだったが、ひとつだけどうしても食べたくないものがあった。

「菜の花のおひたし」だ。

季節もので、めったに食卓に出てくるものではない。

今日を乗り越えてしまえばまた一年間会うこともない。

それはわかっている。

だけど、どうしてもあの苦みだけは許せなくて、「栄養があるから」とノルマのように小皿に盛られたそれを、味がわからぬようにたっぷりマヨネーズをつけて飲み込んでいた。

苦み、というのはどのタイミングで克服したのだろうか。

いつの間にやらあんなに苦手だと思っていた「苦い」という味をそれが美味しいんじゃないか、と思うようになっていった。

春の菜の花に、夏のゴーヤ。

今ではどちらも「食べないと季節を感じられないよねー」とまで言ってのける次第だ。

思えば初めてビールを飲んだ時も、すっきりはするけどたくさん飲むもんじゃないな、と思っていたのに今ではビールだけしか飲まないときもある。

ビールを美味しく感じるようになったころ、きっと菜の花も美味しくなってきたのだと思う。

それはいったいいつ、どのタイミングだったのだろうか。

きっとこれから先もきっかけなんて思い出せないまま、毎年春になるときゅっと口いっぱいに広がる苦みを求めて菜の花を食べるんだと思う。