七十二候をおいかけて

日本の四季をさらに細かく区切った七十二侯。ひとつずつ知っていきたいと思います。

変わらず愛されていて【雀始めて巣くう】

春分 3月21日~3月25日
◆初侯:雀始めて巣くう(すずめはじめてすくう)
◆侯のことば:暁(あかつき)と曙(あけぼの)
春の夜が明けるほんのちょっと手前のまだ暗い夜明けの時間のことを「春暁」といいます。日本でも有名な漢詩「春眠暁を覚えず」のことでもあります。この暁の時間よりもちょっとあと、もう朝を迎えるぞという時間のことは「曙」といいます。平安時代清少納言は「春はあけぼのがいい」と詠いましたね。
きっと春の夜明け頃は言葉にしたくなる何かがあるのかもしれません。
◆侯の野菜:蕗(ふき)
4月から旬をむかえる蕗。春野菜の特徴かもしれませんが、あおあおしい香りやほろ苦い味が特徴です。日本が原産の野菜で野山に自生しています。日本が原産の野菜というのは実は数えられるほどしかなく、確実なのはフキ・ミツバ・ウド・ワサビ・アシタバ・セリと6種類もないんだとか。貴重な存在…!

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変わらず愛されていて

日本原産の野菜としてたった6種類しかいない貴重なフキ。

アイヌの伝承に登場する小人のコロボックルというのは「蕗の葉の下の人」という意味が込められているんだとか。

コロボックルと言えば日本初のファンタジーとも言われている佐藤さとる先生の「誰も知らない小さな国」を思い出す方も多いのではないでしょうか。

母が佐藤さとる先生のファンだったこともあり、実家には先生の本がほぼ揃っていました。「読んでみる?」と手渡された本がかなり年季の入ったとっておき感がとても嬉しく、部屋にこもって読み始めたことを覚えています。そしてせいたかさん(のちに呼ばれる名前)がコロボックルという小さな人たちと出会い、交流を深めていく物語は、案の定もうわくわくして当時何冊も出ていたシリーズをむさぼるように読みました。

海外の童話に出てくる妖精にももちろん憧れましたが、コロボックルは日本で出会える日本の小人です。日本の不思議なので、せいたかさんが出会えるようにわたしもタイミングさえ合えば彼らに出会えるのではないかと、そこらじゅうの草っぱらをかきわけて、木を登ってはうろをのぞき込みました。

また特徴的な絵柄の挿絵も有名で、村上勉さんの絵を見ると自然とコロボックルシリーズと頭のなかでつい結び付けてしまいます。

コロボックルとせいたかさんをはじめとする、同じ日本に住んでいながら全く違う目線で生活していることの新鮮さや、その冒険が小さいころはただただ好きでした。けれど、はたちを過ぎて読み直してみたら、大人になっていく人間たちの変わっていく心情に共感したり、コロボックルたちがのんびり暮らせなくなっていく環境的な変化のやるせなさがぐっと沁みてきて、わたしも手元に置いておきたいシリーズになりました。

もうすっかり終わってしまったとばかり思っていたこのシリーズなのですが、ふと図書館を巡回していると、見慣れた絵柄の見慣れぬタイトルの新しいコロボックルたちに会いました。

作者は佐藤さとる先生ではなく、有川浩先生。

最初はちょっぴりどきどきしながら読み始めたのですが、コロボックルシリーズ独特のぽかぽかの太陽のような柔らかいストーリーは変わっていませんでした。

いつまでも愛されてきたコロボックルシリーズは、これから先もきっとずっとずっと続いていくんだなあと思います。

そういうものをずっとずっと見ていられることはきっとすごく幸せではないでしょうか。