七十二候をおいかけて

日本の四季をさらに細かく区切った七十二侯。ひとつずつ知っていきたいと思います。

そっと背中をおしてくれる、春【桜始めて開く】

春分 3月26日~3月30日
◆次侯:桜始めて開く(さくらはじめてひらく)
◆侯の野菜:アスパラガス
日本では明治のころから広まったアスパラガスですが、ヨーロッパでは紀元前から食されていたと言います。味も食感もずいぶん違うように感じる緑色のアスパラガスとホワイトアスパラガスですが、実は全く同じもので育て方が違うだけだそうです。ホワイトアスパラガスは緑色のものより手間がかかっているぶん甘みなどが増され、ヨーロッパでは春を告げる野菜のひとつとして「春の女王」と呼ばれ愛されています。
◆侯のお菓子:桜餅
西日本と東日本でかたちの異なる桜餅。あんこと塩漬けにした桜の葉で包むということは共通していますが、小麦粉で出来た薄いかわで包むのが関東風。もち米を使った生地でくるむのが関西風となっていますが、生まれも育ちも関東圏の我が家ではなぜか毎年関西風のものを食していました。なので、ずっと「これが関東風」なんだと勘違い…という不思議。

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そっと背中をおしてくれる、春

桜、という花はわたしにとってとても特別な存在だ。

「満開ですねえ」と街を行き交う人たちがにこにこと挨拶を交わすころに誕生日を迎えるわたしは、桜が咲くと「ああ一年間経ったなあ」と感じる。

日本にいるのであれば、新しい生活がはじまる春は、すなわち、わたしも新しい年が始まるということでもある。

「はじめまして」のどきどきも「さようなら」の切なさも、それから「おめでとう」の嬉しさも、たくさんの感情が入り交じって、気持ちがいそがしいこの季節。

同級生のほとんどよりも早く誕生日を迎えてしまうことが、小さいころはあまりすきではなかったけれど、いまでは春に生まれて良かったなあと思えるようになってきた気がする。

街を歩くとみんなが上を見上げていたり、こもりっきりだった家を飛び出したくなったり、そんな浮足立ったピンク色の姿が見られるのは他の季節にはない気がするから。

咲き始めから散ってゆくまでの一週間だけ、南から順番にやってくる春の贈りもの。

「桜をみ見にいこうよ」だなんて、お花を理由にして、会いたい人たちに会いに行けるのはきっと今の季節しかないから。

ひらひら落ちてくる花びらをながめながら、また一年がんばろ、ってそっと息をすいこむ。

誰もがちょっぴり深呼吸して、気合を入れて、そんな春という季節が、今年は少し早めにやってきた。

それは気持ちをもっとかたちにする仕事がしてみたいと思い始めてから最初の春を迎える、わたしの背中をそっと押してくれているような気がする。